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ややこしいけれど大事! 二次的著作物と原著作者の権利

記事作成:2016年3月

問題1
自分の二次創作物が無関係な雑誌に無断転載されたとき、二次創作物の原著作者に許可を得ていなくても自分だけで訴えを起こすことができるでしょうか。

問題2
自分の二次創作物が「原著作者に」無断転載された場合はどうでしょうか。

※二次創作は原著作者に許可を得ていなかったとします。



 さて、問題の二次的著作物についてです。ややこしいところですが、同人をやるうえで避けられないところです。とりあえず、

  • 原著作物……漫画
  • 二次的著作物……同人誌
  • 原著作者、原著作物の著作者……漫画の作者、出版社
  • 二次的著作物の著作者……同人作家

 と読みかえて頑張ってついてきてください。



 前のページでお話しした通り、著作物の要件を満たせば二次創作も二次的著作物として保護されます。しかしながら。

著作権法第11条
二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。

 つまり、二次的著作物はそれ自体として保護されるけれども、原著作者に許可を得ていなかったりしたら当然著作権法違反だよということです。

著作権法第28条
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 28条はなにを言っているのかというと、例えば小説を映画化したものとかありますよね。その映画は小説の二次的著作物です。この場合において、映画の制作者だけではなく小説の原作者もその映画を頒布することができるということです(注1)。

 あるいは、こちらの例の方が身近かもしれません。Cさんがある漫画の二次創作漫画をネットに載せてしまった。これは、原作漫画の二次的著作物ですから、もしCさんが漫画の原作者に許可を得ていなかったら、あとでお話しする公衆送信権を侵害したことになります。

 この11条と28条、同人活動と深くかかわりますのでぜひ理解していただきたいところです。二次的著作物については、原著作者と二次的著作物の著作者の双方の権利が併存するのです。(注2)
 ですから、問題1のように二次創作が無断転載されたら自分だけででも訴えを起こすことができますし、問題2のようにその相手が原著作者であったとしても変わらないでしょう。


 具体的事案でいきましょう。

 夏得手(げえて)という人が『エルルケーニヒ』という詩を書いて出版しましたと。それを見た修辺留都(しゅう べると)という人が夏得手さんに許可を得ずにその詩に音楽をつけて『マオウ』というタイトルでCDを発売してしまった。このとき夏得手さんは「著作権侵害だ!」って修さんを訴えることもできる。他方、夏得手さんが「この曲は私の詩がなければ生まれなかったのだから私が自由に使っていいはずだ」と修さんのCDに収録された楽曲を勝手に複製・販売してしまったら、修さんの方が「著作権侵害だ!」と夏得手さんを訴えることができるよということです。裁判の結果はいろいろな要素が絡むので、結果はどうなるかは状況次第ですが。

 なお、夏得手さんは修さんに不当利得返還請求をすることもできるし、不法行為に基づく損害賠償請求をすることもできます。硬い言葉が並びましたが、要するに夏得手さんは修さんに「お金払え!」といえるということです。さらに夏得手さんは修さんのCDの販売差し止め並びにCDの破棄を求めることもできる(112条)。加えて必要があれば名誉回復の措置を求めることもできる(115条)。刑罰規定もあります。「著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者」は「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(119条)。これは親告罪――被害者が告訴しなければ罪に問われない――ではありますけれど(123条1項)。かといってなにも言われなければ大丈夫ということでは決してないので勘違いなさらないようにしてください。
(この論点は『「二次創作はグレー」って? 刑法・民法と著作権法の位置2』でもお話しましたので怪しかったらぜひ復習をー。)


 以上、問題が複雑で面倒くさいところでした。お読みくださりありがとうございました。
 余力のある方は下も読まれると理解が深まるかもしれません。また、『二次創作同人誌が無断転載された!――ケース問題2』にも関連することを書きましたので、併せてお読みください。




民法第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

第708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付をしたものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときには、この限りでない。

―発展:クリーンハンズの原則―

 民法1条2項の信義誠実原則の具体的な形として、民法708条などに現れている原則です。

 例えば、DさんがEさんに殺人を依頼しました。依頼金は前払いだったので支払ったところ、Eさんは殺人を決行することなく逃げてしまいました。このような場合であっても、DさんがEさんに「金返せ!」と主張するのは認められないのです。自分は殺人を依頼するなんてことをしておいて、都合が悪くなったときにだけ法に頼るのは許されないよ、ということです。これを、「法に反していないきれいな手だけを法は救済する」という意味でクリーンハンズの原則と呼びます。

 原著作者に許可を得ていない二次創作が無断転載された場合にも、クリーンハンズの原則が働く可能性があります。つまり、「自分は原著作者の著作権を侵害しておきながら、都合が悪くなったときだけ著作権法をふるうなんて認めませんよ」となる可能性もあるということです。

 ……でも結局は程度問題でしょう。もはや慣習になりつつある同人活動に比べてその無断転載があまりに悪質だったりしたら、救済される可能性は高いといえそうです。





1)中山信弘(2023)『著作権法〔第4版〕』有斐閣、p.352
2)キャンディ・キャンディ事件(最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決)、ただしこの事件の判決の妥当性については争いがあります。ひとつの立場として、中山信弘先生は、本判決についての解説の中で、「二次的著作物ということになれば,原著作者と二次的著作物の著作者の権利が,お互いに無関係に併存し,一方が無断で使用すれば他方の権利を侵害することとなるために,権利の行使には両者の合意が必要となる。」と述べられています(高橋均編『著作権判例百選[第4版]』(2009)有斐閣、p.114)。問題は著作権法第28条をいかに扱うかという点で、「二次的著作物のうち原著作物に依拠した部分と完全に独自に作られた部分は分離可能か」という議論も相まって紛糾しています。つまり著作権法第28条は、同人二次創作関連の法律として避けては通れない条文でありながらその適用について学説・判例が入り乱れており容易ではない状況なんです。一般の同人作家さんとしては、管理人が上で書きましたことだけ理解していただければ十分足りるのではないかと思います。

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ご興味のある方は以下もどうぞ。
※かなり込み入った話になります。

増補・二次的著作物への権利の根拠

増補作成:2020年12月

 ここまでの記述では今一つスッキリしない、という方も多いと思います。特に同人文化にかかわる方にとって「原著作者の許可を得ていない二次創作物への著作権は本当に保護されるの?」というのは大きな関心ごとでしょう(注3)。ページ冒頭の問題を以下で細かく検討します。かなり込み入った話になりますので、ご興味のある方だけご覧いただければ結構です。お読みいただく場合でも、このサイトに書いてあることをおおよそ理解してから読まれることをお勧めします。


■疑問の所在
民法第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

第119条
無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

 原著作者に許可を取っていない二次創作物の著作権法による保護を疑う理由として、上の条文が挙げられるでしょう。民法90条、119条を一見すると、「許可を得ていない二次創作は公序良俗に反するのだから保護を受けられないのでは?」と思ってしまうかもしれません。
 結論から申し上げれば、これは否定できます。つまり、著作物の要件を満たしていれば、原著作者に許可を得ていない二次創作物も保護される可能性が高いといえます。理由は以下でご説明します。保護されないとしたら、そもそも著作物として成立していないとか、以下の理由をすべて吹き飛ばすほどの簡単に思いつかないような悪質性があった場合に限られるでしょう(その場合は民法 1条2項の信義誠実原則で処理することになりましょう)。


■90条の適用範囲

 民法90条をよく読んでみると、「法律行為は」、とその適用範囲を限定しています。法律的な効果のあるすべての行為について90条の公序良俗の規定が及ぶわけではありません。そこで法律行為とは何か、ということになるのですが、差し当たって法律行為=契約と頭の中で変換してしまって問題ありません(注4)。つまり90条は、「公序良俗に反する契約は無効である」と言っているのです。

 「法律行為は」と限定している以上、「法律行為」でない行為で法律効果を発生させる行為もあります。そのうちで抑えておきたいのは、例えば、落ちているものを拾った(民240条)とか、土の中からなにかを発掘した(民241条)とかいう場合です。これらを「事実行為」と呼ぶ場合もあります。事実行為であれば公序良俗を一切考えなくてもいいかというとそういうわけでもないのですが(民法1条2項の信義誠実原則を直接適用するとか、90条の公序良俗の規定を類推適用することもありえなくもない)、少なくとも民法90条を直接適用することはなくなります。

 それでは、著作物を創作することは「法律行為」にあたるのか。答えは「いいえ」です。著作物の創作は事実行為となりましょうから、法律行為ではなく、民法90条が直接に適用される範囲から除かれます。


■原始取得
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(日本語訳)第2条
(3) 文学的又は美術的著作物の翻訳、翻案、編曲等による改作物は、その原作物の著作者の権利を害することなく、原著作物として保護される。
(フランス語本文は環境的な問題で割愛)
 
 上のベルヌ条約における「改作物(transformations)」が著作権法において「二次的著作物」と表現され、保護の対象とされているのはここまで見てきたとおりです(著2条1項11号)。「その原作物の著作者の権利を害することなく」というところで二次著作物の著作者の権利に制限がかかりますが、二次的著作物が保護されること自体は国際条約でも明記されているうえ、二次的著作物が保護される要件として適法性はベルヌ条約も著作権法も要求していないのですから、二次的著作物が原著作者に許可を取っていないからといってそう簡単に保護から除外されることはないでしょう。


■自然権
日本国憲法第29条
1項 財産権は、これを侵してはならない。
2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
……

 二次的著作物の権利は保護される、ということを、「自然権」という考え方から説明することもできます。自然権とは、すべての人間が生まれながらに持っているとされる権利のことです。1989年フランス人権宣言の「所有権は、神聖かつ不可侵の権利である」(17条)という一文は見たことがある方も多いでしょう(注5)。そこからいろいろあって、今の日本国憲法29条に繋がっています。
 自分が創ったものは自分の財産であり、自分の財産への権利は自分が持つ。これが原則で、法律を作ったり法律を運用して裁判したりする国家は可能な限りこの原則に従わなければいけない。わざわざ明文にない適法性を要求して二次的著作物の著作者の権利を小さくする方向へ著作権法が向かっていくことはないだろう。ただし、そうした財産権も公共の福祉による制限はあるから(憲法29条2項)、二次的著作物の著作者の権利を広げるあまり原著作者の権利を小さくするわけにもいかない。
 どんどん話が壮大になっていきますが、このように理屈を進めていくこともできましょう。


■いったんまとめ

 ここまで見てきた通り、「違法に作成された二次的著作物は保護されない」という考え方には根拠が乏しく、一方「違法な二次的著作物でも原則として保護される」という考え方はさまざまな方向から支持することができます。そして、著作権法の保護を受けられるならば、何人も裁判を受ける権利をもっている(憲法第32条)のですから、法律上保護される利益があるとして訴えも起こせます。逆にこのように考えなければ、「許可を得ていない二次創作物にはなにをしてもよい」と結論しなければならなくなりますが、それでは創作世界の秩序が崩壊してしまいますし、「文化の発展に寄与」(著1条)など望むべくもなくなります。「違法に作成された二次的著作物は保護されない」という考え方は取りえないと考えます。そして、これらの理由は二次著作物の著作者と原著作者との間でも変わらないでしょう。



■キャンディ・キャンディ事件判決

 二次的著作物の分野で唯一の最高裁判例として、上の注2で書きましたキャンディ・キャンディ事件があります。この判決は問題が多く、あまり触れるべきではないと思いますが、それでも最高裁判例なのでここで解説します。

 キャンディ・キャンディという漫画があります。原作者が原稿用紙に小説形式の原稿を書き、作画担当者がそれを漫画化するというやり方でこの漫画は描かれていました。ある時、作画担当者が原作者の許可を取らずに漫画の主人公の絵を描いた絵ハガキを販売するなどしたので、原作者がこれに差し止め請求をした、というのがこの事件の内容です。

 最高裁はこの請求を認めました。文字でストーリーを書いている原作者の権利が、作画担当者の描いた絵にも及ぶ。この事件の結論としては納得できるものですし、著作権法28条の内容を明らかにした点で意味のある判例と言えます。

 しかしながら、最高裁は言葉少なにこの請求を認めたのみで、細かい話には立ち入りませんでした。この判決は平成13年、つまり2001年の判決です。2001年といえば、WindowsXPが発売され、インターネット普及率は44%に上った年です。デジタル社会の急伸を見て最高裁は深い議論を避けたのかもわかりませんが、ともかくこの判決によって多くの議論が起こりました。


@思想・表現二分論
 原作者が書いた文字のストーリーを作画担当者が絵に起こす。この絵に原作者の権利が及ぶ。これはよくよく考えると「著作権法がアイディアを守っていることになるんじゃないか?」という大変な疑問に結びつきます。

 次ページの「世界観・キャラクター・シチュエーションと著作権」で解説します通り、思想とかアイディアとかキャラクターとかいったあいまいなものは著作権法は守らないはずです。原作が文字で、二次的著作物が漫画であるならば、登場人物の台詞のようなもの以外で原作と漫画を結びつけるのはキャラクターとか世界観でしかないはずです。にもかかわらず、原作者の権利が二次的著作物に及ぶ。これは「著作権法が具体的な表現しか守らない」ことの重要な例外というほかありません。


A分離可能性・依拠性
 キャンディ・キャンディ事件の最高裁判決は詳細に踏み込んでいません。しかしこの事件の原審(高等裁判所判決)は、二次的著作物の著作者の独自の創作性のみが発揮されている部分についても原著作者の権利が及ぶことに、2つの理由をつけています。

I. 原著作物と二次的著作物を区別することが現実には困難または不可能で、この区別を要求すると権利関係を不安定にさせる
II. 二次的著作物である以上、原著作物の創作性に依拠しないものはありえないとみることも可能である

 この2つの理由は、どちらも首をかしげたくなると感じます。小説を漫画にした場合であっても登場人物のちょっとしたやり取りが追加されることがあるでしょうし、そうでなくとも背景や構図、登場人物の姿勢などなど文字に書かれていないもので漫画に描かれているものは数えきれないほどあるでしょう。

 以上のように、この判決は問題が多いので、あまりこだわらないほうがよいと思います。




3)中山信弘(2023)『著作権法〔第4版〕』有斐閣、p.183、反対説は半田正夫(1989)『著作物の利用形態と権利保護』一粒社、p.138。なお、本書において中山先生は半田先生の説に対し、「半田説のように適法要件が必要であるとすると,そのような二次的著作物に著作権は発生しないのであるから,原著作物の著作権者は改変された当該二次的著作物を無許諾で利用できることになるし,二次的著作物の創作者は第三者の侵害に対しても差止めができないことになり,その上,原著作物の著作権が消滅するとその二次的著作物はパブリックドメインとなる」(pp.183-184)と述べられています。
4)田山輝明・清水誠・有泉享・我妻榮(2018)『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物件・債権―〔第5版〕』日本評論社、p.175において、法律行為の定義は、「行為者が一定の法律効果を生じさせようとして行為をし、その欲した通りの効果を生じさせる行為である」となっています。
5)Stanislas de Boufers Rapport,"sur la propriete des auteurs de nouvelles decouvertes et inventions en tout genre d’industrie,"(Paris 1790)以来、自然権的な所有権の発想と発明が結びついたといわれます。

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