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ネットに流すな!――複製権、公衆送信権等1

記事作成:2016年4月

問題1
市販のCDに収録されている楽曲を動画投稿サイトに無許可で投稿したらどんな権利を侵害することになるのでしょうか。

問題2
ゲームのプレイ実況動画は違法でしょうか。



著作権法第21条
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

著作権法第23条
1項 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2項 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

著作権法第2条5項
この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数のものを含むものとする。
(「公衆」について、同一構内の範囲に限る場合は除く(2条1項7号の2かっこ書き)。)


 著作物につき同じものを作るの禁止、勝手にテレビやラジオやネットに流すのは禁止という条文です。ただし、あとで書きますように、引用とか私的使用とかはアリです。


 さあ、ここで問題になってくるのが、「複製とはなんぞや……」です(注1)。まったく同じコピーだけを指すわけではありません。難しいですので、まずは定義をふたつ見てみましょう。

  • 複製とは、「有形的に再製すること」である(著作権法2条1項15号)
  • 「著作物の複製とは、すでに既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足るものを再製することをいう」(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件、最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決)

 …………

 なるほど、わからん。

 いやまあ、「それを真似してそれっぽいものを作ったら複製だよ」というのはなんとなくわかるのだけれども、具体的にどうなのさ、と。

 というわけで、具体的事案を見てみましょう。

 あるお医者さんが本を出したんです。健康法の本です。別のお医者さんが裁判を起こしました。「あいつの書いた本の半分弱が、私が以前出版した本を真似たものだ」と。
 結果はこうなりました。たしかに「です、ます」調と「だ、である」調の違いはあるよ。でもどー考えても偶然に似たものとは思えないし、選べる言葉が少なくて必然的に似たわけでもない、だから問題になっている本はね、「本件著作物に依拠して,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したもの,すなわち,本件著作物を複製したものと認められる。」(注2)

 「ですます」調を「である」調にする程度の改変ではまだまだ複製だよ、されたわけです。

 「翻案と複製は似たようなもので、創作性があるのが翻案、創作性がないのが複製」と理解すればよいでしょう。ただ、ぶっちゃけた話、「この人は複製権か翻案権のどっちかを侵害してる」で裁判できるので複製の定義をこれ以上専門的に探る必要はあんまりなさそうです。ごめんなさい



 公衆送信権に話題を移しましょう。

 イメージしやすいですよね。漫画でいえば、著作者が許可していないのにお話の最初から最後まで全部ネットに載せたら著作者の利益が大きく損なわれることになりますからダメだということです。なお、「公衆」というのは「不特定多数」だけではなく、例えば会社の東京本社と大阪支社の従業員全員、のような特定多数も含みます(著作権法2条5項)。

 ここで注意していただきたいのが、ゲームのプレイ実況動画のようなものも、公衆送信権を侵害する行為であるということです。物語が重要なRPGやシミュレーションゲームなどであれば特に、漫画をネットに勝手に載せるのと同じように理解できるのではないでしょうか。(注3)

 一般に、プレイ動画投稿というものはその性質上法的にかなり厳しく制限されるものであることは理解すべきでしょう。なお、かなりもめた問題なのですが、判例はゲームソフトが映画の著作物にあたるとしています(注4)。

 ゲームは製作に多大な時間と費用がかかる特殊な著作物です。私見ですが、プレイ実況をやるにしても、ソフト発売から数年たって市場にほとんど中古しか流れなくなった状況でやるとか、できる限りの配慮はすべきでしょう。
(最近は実況動画の配信を前提としたガイドラインを公表する会社も増えておりますので、ゲームのプレイ実況を動画投稿サイトにアップロードしたいと考える場合はまずガイドラインの有無を確認するとよろしいでしょう。しかしながら、「他社がガイドラインを公開してゲーム配信に寛容であるから他の会社のゲームでもプレイ実況してもいい」という発想はするべきでありません。)

 それと、動画投稿サイトの動画には再生前に広告が表示されるものと表示されないものがあると思います。勝手に広告が表示されてしまうところもあるようですが、広告収入が動画主に入るところもあります。違法にアップロードされたコンサートとか音楽の動画の広告収入は誰が得るのでしょうか。少し立ち止まって考えてみる必要がありそうです(コンサート動画の違法アップロードの場合、実演家の録音権・録画権・放送権などもかかわってきます(著91条、92条)。)。
 ただし、動画投稿サイトによっては楽曲の利用について権利者から管理楽曲の利用を許諾されている場合があります。その場合でも主に「歌ってみた」「演奏してみた」系の動画や演出上の挿入曲としての利用等であり、音源に改編を加える行為(同一性保持権)や音源の視聴を主目的とするような場合は許諾されていないことも多いようです。楽曲を利用される際は各動画投稿サイトのガイドラインをご確認ください。

 順にご説明いたしますが、法の向きとしても営利が絡むとより悪質だと判断されやすいでしょうし、損害賠償金額にも影響します「利益のあるところに損失も帰せしめる」報償責任なんて言葉もありますよ。





1)高林龍先生は、判例を踏まえつつ、「複製とは,『既存の著作物の存在とその表現内容を認識したうえで』,『その創作的な表現部分』『と同一のもの』をまたは『修正,増減,変更等が加えられているが』『その過程に創作性が認められず』,『表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており』かつ『これに接するものが既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるもの』を『作成しようと意図して』『有形的』に『作成する』こと」(高林龍(2010)「標準 著作権法」有斐閣、p.80)と説明されています。
2)ぐうたら健康法事件(東京地裁平成7年5月31日判決)
3)ゲーム実況について、弁護士の藤田晶子先生の回答です。→「弁護士ドットコム:『動画サイトで人気の「ゲーム実況」 法律的に気をつけるべき点は?』」
4)パックマン事件、東京・大阪でほぼ同時に争われた中古ソフト事件を経て、最高裁平成14年4月25日第一小法廷判決(中古ソフト大阪事件上告審)で結論されました。

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