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「攻略サイト」って違法なの?――複製権、公衆送信権等2

記事作成:2016年4月

(キャラクターと著作権に関連する記述は『世界観・キャラクター・シチュエーションと著作権』に移動しました)

問題
攻略サイトはどのような権利を侵しているといえるでしょうか。



著作権法第21条
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

第23条
@著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
A著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

第27条
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

第2条5項
この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数のものを含むものとする。
(「公衆」について、同一構内の範囲に限る場合は除く(2条1項7号の2かっこ書き)。)


 違法動画はよく話題にのぼるのにゲーム攻略サイトについてはあまり話題にならないのが不思議なので、問題提起の意味も込めて書きます。

 まあアタリマエに考えても、攻略サイトって著作権者の利益を侵害していそうですよね。まじめに公式ガイドブックを買った人がむしろ損をする構図になっている現状とか、「無断転載はダメ!」と言う一方に攻略サイトを持ち上げることとかが正当であるとする倫理基準があるならちょっと興味深いですよね。直接的な判例はありませんが、考えてみましょうか。


 原則から確認しましょう。著作物を権利者の許可なく複製・公衆送信したら、著作権侵害です(著作権法21条、23条)。あるいは、著作物を権利者の許可なく変形した、とすれば、それも著作権侵害です(著作権法27条)。

 ここで、まず、「ゲームは著作物であるか」が問題となりましょう。これは判決で肯定されています。前ページの注4で書きました中古ソフト大阪事件の最高裁判決でゲームは映画の著作物(著作権法2条3項、10条1項7号)であると確認されました。確かにゲームの影像はプレイヤーの操作によって変化する点で映画とは違いますが、製作側としてはその「プレイヤーの操作による変化」も織り込んだうえでゲームの影像というアニメーション映画類似の著作物を作ったといえるからです。

 以上のように、ゲームの影像が映画の著作物であるとして、それではそこから抽出されたデータがはたして著作物となり得るのか。ここも議論がある所だと思います。

 この点、私はこれを著作物の複製か変形(『勝手な改変はダメ――同一性保持権、翻訳権・翻案権等』でご説明した点です)であると考えます。複製であれば、「絵を模写するのが複製であるように、ゲームからひとつひとつの情報を抜き出す創作性がない行為も複製」と捉えることができるでしょうし、変形であれば、「ゲームの影像の構成要素を文字に変形している」と捉えることができるでしょう。

 ところで、上記中古ソフト事件の議論の中で、「ゲームは映画の著作物だ」と主張していた側はこんなことを強調していたのです。「ゲームは映画と同じく多額の資本を投資しないと製作できない点で同じだから保護されるべきだ」と。この主張は裁判でもそれなりには認められました。最終的には経済の流通とかいった事情も考慮した折衷的な判決に落ち着いたものの、ゲームは多額の製作費がかかる点である程度特殊であるのは踏まえておく必要があるでしょう。

 その観点で見ると、ゲームから抽出したデータは、権利者側としても、公式ガイドブックの販売という形でその権利を投下資本の回収に使っているといえます。ですから、そうしたデータを広範囲にわたって公衆送信した場合、はっきり不都合が生じるといえるのではないでしょうか。

 もちろん、著作権法は「公正な利用」と「著作者等の権利の保護」を天秤にかけますから、ゲームの情報を流すのは全部ダメ! というのもまた誤りでしょう。発売から時間がたったゲームの慣習になじむ程度のネタバレ、情報交換は問題ないと思います。しかし、だとしても、もし公式ガイドブックなどで掲載されることが慣習的にわかりきっているものまで網羅的にネット上で公開するのを信義誠実としたら、それはずいぶん妙なことだなあと感じます。



 さて、前ページで持ち越した損害賠償の話です。攻略サイトとか音楽CD中の楽曲を勝手に動画として投稿したものとかプレイ動画のようなものが、仮に全面的に「複製権」と「公衆送信権」を侵すものとされたならば、損害賠償金額は以下のように考えていきます。

著作権法第114条
1項 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。
1号 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
2号 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

2項 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3項 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4項 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法第二条第一項に規定する管理委託契約に基づき著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第十三条第一項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。
5項 裁判所は、第一項第二号及び第三項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。
6項 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。


 長い条文ですけれど。
 この損害賠償について定めた114条は、近年の海賊版や違法アップロード被害の動向に伴い、注目すべき裁判例が出されたり法改正がなされたりしております。

 基本の考え方としては、直接的に著作権者の利益を侵害した場合、賠償金額は「動画ダウンロード数×CD/ゲームソフト販売利益」とかであるとなります(114条1項1号)。この点、知財高判令和2年10月6日では「単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく、ダウンロードして作成された副生物の数量を意味するものである」とし、ダウンロードされたのは閲覧数の1割とされました(注1)。仮に閲覧数が10万回などであればその1割でも相当な額になることがおわかりになるかと思います。これを基本に、減額要素として権利者の販売能力や販売できない事情等を勘案することになります。さらに、2項において、侵害者が利益を受けた場合にはその利益の額を損害額と推定します。

 また、1項2号、3項、5項ではいわばライセンス料相当額を請求できるとしています。それも、侵害される前にライセンスを取得した人と侵害した後に賠償請求された人が支払う額が同じにならないように、5項で「侵害があつたことを前提として」という文言を加えています。「侵害プレミアム」、などと呼ばれますが、要するに侵害後にライセンス料を支払うなら相応に高額になりますよということです。

 ネット上に複製物を公衆送信すると、一気に際限なく広がります。誰でもインターネットに接続されているコンピュータを使って閲覧・保存(複製)できるのです。アップロードした本人がその複製物をネット上からあとで消しても、すでに拡散してしまったものまでは回収できません。長い時間残ります。原著作者の逸失利益は計り知れません。

 「その作品が好きだから……」は重々承知していますけれど、この条文にのっとった損賠賠償請求をすることも権利者は可能である以上、そこは権利者の好意にほとんど依存する形になることは知っておいてください。本当にその作品が好きならば、権利者の利益を大事にしてください。



ご参考にどうぞ。
松下正 『中古ゲームソフト判例からみるデジタル著作物の保護に関する考察』
中古ゲームソフト事件大阪高裁判決
KLS著作権情報館 判例:映画の著作物の消尽理論




1)この点、岡村久道先生は「書籍販売の場合に、書店で委託販売書籍を無料で立ち読み(閲覧)しても購入しなければ数量に含まないのと同様といえよう。」(岡村久道(2024)「著作権法〔第6版〕」株式会社民事法研究会、p.545)と類似による説明をされていますが、一方中山信弘先生は「海賊版サイトはストリーミングが主流となっており、この規定は見直す必要があろう」(中山信弘(2023)『著作権法〔第4版〕』有斐閣、p.796)と指摘されています。管理人としても、同時に何十人もストリーミング再生できる公衆送信と書店の立ち読みとを類似で語るのは難しいのではないかと思います。

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