勝手な改変はダメ――同一性保持権、翻訳権・翻案権等
記事作成:2016年3月
問題1
小さな子が作った粘土造形を、職人技術を持つAさんが勝手に作り替え芸術作品に昇華させました。一生懸命作った粘土造形がなくなってしまったので、その子は泣いてしまいました。Aさんはなにかの権利を侵害したのでしょうか。
問題2
改造がなされて本来ならありえない展開がなされるシミュレーションゲームを流通させる行為は著作権を侵害するのでしょうか。
問題3
問題2において、そのゲームの利用が家庭的な利用に限られる場合であったらどうでしょうか。
問題4
即売会で同人誌を金銭と引き換えに頒布する人は、建前はともあれ法律上「商人」として扱われる可能性があるでしょうか。
著作権法第20条
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
第27条
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
第113条6項
著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。
著作物は勝手に改変しちゃダメだよ!
……という、二次創作をやるのであれば侵害せざるを得ない権利です。
ところで、
前のページで権利の名前を並べたときに、それらが「- - - - -」でふたつに区切られていたのにお気づきでしたでしょうか。あれの上側に入っていた公表権、氏名表示権、同一性保持権はまとめて
著作者人格権と呼ばれます(名誉声望保持権は後述)。
思い出してみてください。著作権法は著作者の権利をふたつの面から守っていましたよね。
財産面と人格面です。忘れてしまった方は
『正しく知っていますか? 著作権法の趣旨』のページを見てみましょう。そのうちの人格面を強く守るのが、著作者人格権です。
上に似たような条文がふたつ並んでいますが、20条の同一性保持権は特に人格を守り、27条は財産面を守る、という違いがあるわけです。ですから、「翻案は許したけどその改変は気に入らない」みたいなことも起こり得るわけです。
さて、では「翻案とはなんぞや……」という議論になるわけですが、とりあえず「もともとのものを改変してあるけど普通に見て『あ、あの作品をいじったんだな』というのがわかる程度」にもとの作品をいじったもの、と理解しておけばよいでしょう。(注1)
それと、著作者の人格を守る同一性保持権、というのもご説明しなければなりません。
6歳くらいの男の子を想像してください。その子が粘土でイルカさんを作りました。かわいいですね。
しかし、そこに親戚のおじさんがやってきました。その親戚のおじさんは実は熟練の職人でした。いたいけな手あとが残るそのイルカさんを見ておじさんは衝動を抑えきれず、男の子がいない間にそのイルカさんに手を加えて老成した技術を駆使し焼き上げまでやってひとつの芸術作品として完成させました。
男の子はどう思うでしょうか。いくら世間的にイルカさんの価値が高くなったからといっても、納得いかないですよね。「一生懸命作ったのに!」ってなりますよね。同一性保持権が守るのはこれです。
著作者の、その作品に対するこだわりとか愛情といったものを守るのが同一性保持権です。もちろんもっとわかりやすい名誉とかも守りますけれど、いかにも民法的ですよね。そして、こうしたものを「著作者の人格を守る」と呼びならわすわけです(注2)。
もうひとつ、前ページでもかっこに入れて書きました「名誉声望保持権」というものがあります。113条なんて、他の権利よりも遠いところに書いてあるのでかっこ書きにしました。これは、たとえ著作物に改変がなされていなくとも、例えば高尚なものを目指して描いた絵画が風俗店の看板に使われたりしたらその絵画のイメージが大きく損なわれるからそれを禁じよう、という権利です。改変がなされていなくとも運用できるところに同一性保持権との違いがあります。著作権法の人格保護の面がよく表れていますね。
そんな感じです。
二次創作同人誌においては、「他者に著作権が帰属するものに無断で改変を加えた作品を販売して金銭を得る」構図が成立しているのは重々理解する必要があります。「同人誌に値段がつくのはサークル費の延長である」といった話などはもはや実状にあわなくなっていますから、社会的に通用させるのは厳しいかと思われます(後述)。
二次創作をやるにあたっては、せめて「この作品はファンが原作を作り替えたもので、原作がここの作品のようだとは思わないでくださいね」ということはわかるようにしなければならないと思います。これには
商標法と不正競争防止法もかかわってくるのですが、それはあとでご説明します。
ところで、同一性保持権についての事件として有名なものに「ときめきメモリアル事件」というものがあります(注3)。
初めから主人公が高い能力値を得られるメモリーカードを流通させる行為は同一性保持権の侵害という判示がされました。
初期能力値が変化するとゲームの物語も大きく改変されるからです。
ここで注目しなければならないのは、
そのゲームが行われるのが限られた範囲であること。ときメモが行われるのは、普通に考えれば家庭内です。
あとでお話しします通り、家庭内での利用は通常「私的使用(著作権法30条)」にあたるので、著作物の利用は割と許されるのです。しかし、
私的使用は著作者人格権には適用されません(50条)。たとえ家庭内の限られた使用であっても、同一性保持権を侵害してはならないのです。ちょっと締めつけが厳しいんじゃないか、とも思われますが、2025年1月現在そのようになっています(注4)。この50条を厳格に解してしまうと「お風呂で替え歌を歌ったら5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれを併科する(著作権法119条2項1号)」という事態になるので、学説はこの50条に対して批判的な傾向にあります。
(文系のパラメータを上げて如月さんと図書館に行きたい。)ボソ
商法第4条2項
店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。
―コラム:擬制商人―
商法4条2項はこう言っています。「お店っぽいところでものを売ったら商人だよ!」と。
お金を稼ぐ目的でものを売ったら疑いのない商人です(商法4条1項、501条、502条(注5))。お金を稼ぐ目的でなくとも、外から見た感じで似たようなことをしていたら商人として扱いますよ、というのが商法4条2項です。例えば農家の無人販売は商法4条2項が適用されます。なぜこのような条文を設けたのかというと、お店っぽいところでものを売っている人は、たとえ営業をする気がなくとも商人と別として扱う理由がないからです。
さて、同人誌即売会です。まず実質的に同人誌と金銭の交換が行われているし、お店っぽいものもある。ここでは、わざわざこの法律を定めた目的からしても、「販売」は「その名称を問わず、実際に物品と金銭を交換すること」とみるのが妥当でしょう。あとは「業とする」の解釈が問題となりましょうが……。
同人誌即売会で同人誌を売ったら商人として扱われる可能性がある、というのは知っておくとよろしいかと思います。商法も私法ですので、例のごとく程度問題となると思います。同人誌頒布はもはや慣習となりつつありますから、そうした慣習が酌まれるかもわかりません。もちろん、著作権者から警告を受けたときに誠実に対応することを前提として。
注
1)高林龍先生は、判例を踏まえつつ、「翻案とは,「既存の著作物の存在とその表現内容を認識したうえで」,「その創作的な表現部分」に「修正,増減,変更等が加えられており」かつ「その過程に創作性が認められ」,「表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており」「これに接するものが既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものを」「作成しようと意図して」「作成する」こと」(高林龍(2022)『標準 著作権法〔第5版〕』有斐閣、pp.80-81)と説明されています。
2)加戸守行先生は、パロディと同一性保持権について、「パロディ形式あるいはもじり形式のものについては、既存の原則をパロディ化したり、もじったことが一見して明白であり、かつ誰にもふざけ茶化したものとして受け取られ、原作者の意を害しないと認められる場合には、形式的には内面形式の変更にわたるものであっても、同一性保持権の問題は生じません。」(加戸守行(2021)『著作権法逐条講義 七訂新版』著作権情報センター、p183)と述べられています。
3)最高裁平成13年2月13日第三小法廷判決
4)中山信弘(2023)『著作権法〔第4版〕』有斐閣、p.509
5)厳密には目的の有無を問わない商行為(501条各号)と営利を目的とすることが要件となる商行為(502条各号)とが区別されているのですが、このサイトの趣旨から大きく逸れるので詳細は省略します。