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他人の著作物はどうやったら使えるの?――引用・私的使用

記事作成:2016年4月

問題1
あるブログにイラストが4つ並んでいました。「1枚は○○さんのものだけど残りは私のイラストだよー」と下に書いてありました。これは引用の方法として正しいでしょうか。絵柄はよく似ていて見分けがつきません。

問題2
雑談のネタ的な利用で随所に漫画の画像を張り付けているサイトがありました。そのサイトには「当サイトの画像は著作権法32条に基づき引用しています」と書かれていました。この記述は正しいでしょうか。

問題3
「自分のために使ってるからいいよね!」と、引用の「正当な範囲」を超えて漫画の中身をブログに載せている人がいました。注意したら、「私的使用だからいいの!」と反論されました。これは正しいでしょうか。



■引用
著作権法第32条1項
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

著作権法第48条1項
次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、……

 公表された他の方の著作物も、ちゃんと手順を踏めば引用できます。この場合において、条文には3つの条件が記されています。加えて、判例により、もう少し細かい判断基準が2つ設けられました(注1)。計5つ、並べてみます。

  • 公正な慣行に合致すること
  • 引用の目的上正当な範囲内で行われること
  • 合理的な方法及び程度により、出所を明示すること
  • 引用部分と自分の創作した部分とが明瞭に区別されること
  • 自分の創作した部分が主、引用部分が従の主従関係にあること

 このうち、「出所明示」「明瞭区分性」「主従関係」の要件は32条の「公正な慣行」「正当な範囲内」の要件に含まれる、と考えることができますので、特に大事なのは32条に書かれているふたつの要件といえます(注2)。この点、学説においてはゴタゴタしていますけれど。

 これらの条文の存在意義は、著作権法第1条に規定する著作物の「公正な利用」を具体的に明文化して保障している点にあります。『正しく知っていますか? 著作権法の趣旨』でお話した通り、著作権法は「公正な利用」と「著作者等の権利の保護」を天秤にかけます。ここにおいて、上の条文は「著作権者側に天秤が偏りすぎないように調整するための条文である」、といえるわけです。ですから、仮に著作物に「引用禁止」と書かれていても、それが契約の形態をとっているなど特段の事情のない限り法的な拘束力を持ちません(契約の話は『二次創作同人誌が無断転載された!――ケース問題2』で詳しく書きました)。

 ただし、同人誌とか二次創作サイトにおける「引用禁止」は「原著作者に配慮する」という正当な目的がありますから尊重されるべきでしょう。条文に照らせば、二次創作物の引用は「公正な慣行」の要件に反する可能性がある、ということです。「投稿サイトに掲載された18禁小説が学術論文に引用された」というケースで引用方法は学術論文の形式に則しているけれど倫理的に問題がありそうだ、という場合も、争うならこの「公正な慣行」要件のところだと思います。

 「公正な慣行」の要件の具体的な中身については、いまいち明らかにされていないというのが現状のようです。いっぽう「正当な範囲内」の要件については参考となる裁判例があり(注3)、小説の主人公の心情を描写するための引用はダメだとされました。条文通り、「報道、批評、研究」かそれに近い理由で引用することが必要、ということですね。

 以上より、雑談のための著作物の掲載について「32条の引用だ!」と主張することはできないということです。そういったものについては、少しくらいなら権利者に損害を与えないということで大目に見てもらっている、というところではないでしょうか。

 もうひとつ、「出所明示」の要件の話です。条文上の「合理的な方法及び程度」というのはその引用がなされるケースごとに違ってきます。例えば学術の分野における引用の形式は慣習でかなり細かいところまで定まっていますが、それはあくまで引用元の信頼性が必要な学術分野であるからで、常に学術分野と同等の形式で引用元を示さなければならないというわけではありません。普段ちょっと引用するときにまで「正式名称か否か」とかいったことを神経質に考えなければならないというのは不合理でしょうから、一般的には、普通の人が普通に出所を特定できる程度に書かれていれば十分だと思います。

 それと、出所を明示するときにはオリジナルの引用元を書きましょう。漫画の画像とかテレビ番組の画像とかどなたかのイラストのようなものの引用について、「△□まとめより引用」とかいった記述になることは通常ないはずです。


 あ、はじめの問題1はもっと「明瞭に区別」すべき案件です。はい。



■私的使用
著作権法第30条1項
著作権の目的となつている著作物……は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること……を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

第43条
次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従って利用することができる。
一 第三十条第一項、…… 翻訳、編曲、変形又は翻案
……

第50条
この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

 著作物につき個人的に利用するだけなら同じものを作ってもよい、と言っています(30条1項)。

 これ、絶対に勘違いしないでください。ネット上に載せたら「限られた範囲内」にならないので「私的使用」になりません。「X(旧Twitter)上での利用は私的使用だ!」そんなわけありません。この条文は、例えば「すごいイラストがあったから自分で絵を描くときに参考にするため自分のパソコンに保存する」のようなことを想定しています。「限られた範囲」の解釈は、「親密な友だち」くらいが限界で、「普通の友だち」とか「同じサークル内」くらいでもアウトです。(注4、5)

 なお、近年、動画投稿サイトなどに違法にアップロード(公衆送信)された複製物を私的使用で複製(ダウンロード)するなど、見過ごせないケースが多くなっているようで、なんらかの対策が必要では? と問題視されています。実際、平成24年著作権法改正において、違法にアップロードされた録音又は録画を違法と知ってダウンロードする行為にも刑事罰が科されるようになりました(119条3項各号)。

 43条は「私的使用の範囲内なら著作物を改変してもいいよ」といっているのですが、その場合でも同一性保持権は行使されえます(50条)。同一性保持権は著作者人格権でしたものね。このことは、『勝手な改変はダメ――同一性保持権、翻訳権・翻案権等』でご説明いたしましたので、忘れてしまった方はもう一度復習してみるとよろしいでしょう。




1)モンタージュ写真事件(最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判決)
2)厳密には「出所明示」は引用と別問題で考えなければなりませんが、ここではかんたんにして一緒にご説明します。
3)南国文学ノート事件(東京地裁平成16年5月31日判決)
4)参考裁判例として、舞台装置設計図事件(東京地裁昭和52年7月22日判決)があります。
5)著作権審議会第5小委員会報告書(昭和56年)II-1「第三に」以下
6)文部科学省ホームページ 『文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理』

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