正しく知っていますか? 著作権法の趣旨
記事作成:2016年3月
問題1
ネタバレになってしまう漫画のシーンをブログに無造作にアップロードする人がいました。注意したら、「これは私の持ってる漫画だから何をしようと私の自由!」と返されました。この主張は正しいでしょうか。
問題2
著作権法はなにに留意しつつなにに寄与することを目的として定められた法ですか。
同人に関する法として、著作権法は避けて通れません。そこで、まず著作権法をしっかり説明したいと思います。
著作権法を知ろうとすると、ともすれば細かい知識ばかり詰め込むようになってしまうかもしれません。しかしそれでは木を見て森を見ない状態になってしまいます。「
著作権法はなにを守っているのか」という大きな方向は見失わないようにしてください。
そもそも著作権ってなんでしょう。具体例から考えてみます。
例えば、Aさんが小説を書き、小さな地域紙で発表しました。それに目を付けたBさんが、Aさんの小説をそのまま大手文芸誌に投稿し、みごと賞を獲得しました。賞金と名誉は全部Bさんのもの、となると、Aさんはもう小説を書きたくなくなってしまうかもしれません。それでは文化が衰退してしまいます。そこで「Aさんの権利を守ろうじゃないか!」となりました。このAさんの権利が著作権です。
「賞金と名誉」、ここを見てください。著作権法は、まず
財産としての著作権を守ります。そして、名誉とか作品に対するこだわりといった
人格面でも守るのです。
著作権は情報と考えてください。物体そのものとは分けることができます。難しいですので、理解するために次の事例を見てみましょう。(注1)
あるところに顔真卿の書を持っている博物館がありました。顔真卿というのは中国の唐の時代の有名な書家です。ある日、その顔真卿の書がどこかの出版社によって勝手に写真を撮られ、その写真が本に掲載されて出版されてしまいました。「私たちが持っている書なのに!」博物館は裁判を起こしましたが、結局負けてしまいました。
この結果になったのも、
「物を持っている」ことと「著作権を持っている」ことは別だからです。なお、著作権そのものの持ち主は顔真卿本人ですが、大昔の人なので既に著作権は消えています。
これより、問題1の答えは「正しくない」となるでしょう。
さて、こうした著作権を守る著作権法ですが、いったいどういった目的で作られたのか。それは第1条に書かれています。どんな法律でも、
第1条に掲げられる法の目的を理解することは極めて重要です。その法のすべての条文に影響するからです。
著作権法第1条
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
公正な利用に留意しつつ、文化の発展に寄与する。これが著作権法の目的です。似ている法として特許法がありますが、あちらは「産業の発達に寄与」することを目的としています(特許法1条)。
法律の目的がこれですから、漫画のキャラクターの台詞を雑談としてブログなどでうろ覚えで書くとか、ちょっとしたファンアートとかいったことまで取りざたするのはどうだろうなということになるのです。
ここに見られる考え方にも注目してください。
「公正な利用」と「著作者等の権利の保護」を天秤にかけています。ふたつの利益を天秤にかける、法の基本にして非常に重要な考え方です。天秤は弁護士の先生の胸元のバッジにも輝いていますし、最高裁判所の正義の女神像も持っていますよね。法的にものを考える際には、
衝突する利益を天秤にかけることを意識してみてください。
割と曖昧な感じです。その通りです。
法は常識や倫理を含みますので、曖昧なところも結構あります。そして
刑事と民事で考え方が全く異なるのです。詳しくは次のページにて。
注
1)
顔真卿自書建中告身帖事件(最高裁昭和59年1月20日第二小法廷判決 リンクは判決文)