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世界観・キャラクター・シチュエーションと著作権

記事作成:2017年4月

問題1
昔の漫画のパロディCMがテレビに流れる! これは著作権法に抵触しないのでしょうか。

問題2
「キャラクターは著作物として保護されないって聞いた。じゃあこの漫画のキャラクターのデザインは好きに使っていいってこと?」本当にそうでしょうか。

問題3
「X(旧Twitter)で好きなキャラについての見てみたいシチュエーションを呟いたら他の人が勝手にそのネタで同人誌を描いた。気分が悪い……」。法的に問題はあるのでしょうか。



著作権法第2条1項
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。
……
十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
……

 著作物の範囲をもうちょっと掘り下げてみましょう。


 二次創作と切っても切り離せない概念に、世界観というものがあります。例えば、草むらに入ると超能力を持つ動物に襲われその動物は特殊なボールをぶつけることで捕獲することができるという世界観。父の意志を継ぎ剣と魔法を駆使して魔王を倒す冒険をする勇者の存在をリアルにする世界観。こういった世界観をオリジナル作品と共有することは二次創作の前提です。

 この世界観もまた、創作された設定です。「思想又は感情」にも含まれるでしょうし、文化的なものであることも間違いありません。すると、世界観というものも著作権法で守られることになりそうな気もしてきます。


 結論を急ぐ前に、「キャラクター」についても見てみましょう。「キャラクターは著作権法で守られない」というのは聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それが最高裁で判示された事件は「ポパイネクタイ事件」といいます(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決)。

 この判決は結構難しいので、聞きかじった程度ですと判決の趣旨を取り違えてしまう危険があります。実際、ネット上の二次創作関連の議論を見ていると勘違いされている方をそれなりに目にします。以下、ざっくりこの事件を解説します。

 ポパイという漫画があります。これは新聞にて掲載される1話完結の漫画です。著作権法ではポパイ漫画は公表から50年保護されます(旧53条、現行法では保護期間は70年)。ポパイの連載開始は1929年です。ポパイは執筆者を交代してながーく描かれ続けました。1982年にある人が、どこからどう見てもその「ポパイ」の登場人物にしか見えないキャラクターがデザインされているネクタイを販売したのですね。そこでポパイ漫画の権利者は、ネクタイの販売の差し止めを求めて訴えたのです。
 問題は、1929年から50年を数え、戦争という特殊状態の日数加算をしたとしても、ポパイ第1回作品の漫画の著作権保護期間が1990年に消滅することです。この最高裁判決は平成9年、つまり1997年です。ネクタイが販売された1982年時点ではともかく、1997年時点では著作権保護期間が切れてしまっているので差し止め請求なんてできそうにないですよね。でも漫画は続いているから「キャラクター」は保護されるべきだ、とポパイ漫画の権利者側は主張したわけです。

 結論はどうなったのかというとこうです。
 「キャラクター」とかいうフワフワしたよくわかんないもの(抽象的概念)は著作権法じゃ守んないよ。でも登場人物のデザインは守るよ。ポパイ漫画は1話完結だからそれぞれのお話ごとに著作権の保護期間を数えるよ。ネクタイのデザインのポパイは第1回作品のポパイのデザインっていえるよね。じゃあもう保護期間切れてるよ。以上。

 仮にポパイの「キャラクター」なるものが著作権法で守られるとしたら、執筆者を交代し続ければ半永久的にポパイのデザインが守られることになってしまうので、この判決は妥当と思われます。

 結論を繰り返しますと、「キャラクター」は言葉としてフワフワしているから(抽象的であるから)著作権法で守られないのであって、登場人物のデザインは守られるということです。例えば『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉というキャラクター。単行本1巻の両さんと30巻の両さんと100巻の両さんはデザインの上でかなり違います。しかし読者はいずれも「両さん」だと認識できます。それぞれのデザインの違う両さんを同一人物である「両さん」と認識させるものがキャラクターであるわけですが、そのキャラクターはそれぞれの読者の頭の中にしかなく、またそれぞれの読者ごとに千差万別です。ゆえに、具体的な創作的表現のみを守るところの著作権法で守ることができないのです。ムズいですね。


 「世界観」も同様です。たとえ登場人物の名前が同じで、人物関係が同じで、その他地理的な名称だとか登場する建物の外見とかがみな同じだったとしても、オリジナル作品と二次創作作品をつなげる「世界観」はそれぞれの人の頭の中にしかないので著作権法で保護されません。保護しようがないのです。

 ちなみに、人名は基本的に著作権法で保護されません。特定の人に独占させるわけにはいきませんからね。ですから、二次創作で問題になってくるのは主にデザイン面と、セリフをそっくりそのまま大量に引いてくるとかいったことになります。

 ここまでご理解いただけたなら、シチュエーションについてどうなるかはおわかりですね。シチュエーションにも著作権法の保護は届きません。ただ、あくまで「法的には」です。その業界内での評価は別問題となります。


応用して考えれば、デザイン面で問題の発生しえない小説について、作中の描写をもとに絵を起こして二次創作の漫画を描くことは(セリフや文章を大量にコピーしない限り)著作権法においては原則として問題にならないと言うことができます。……しかし、『ややこしいけれど大事! 二次的著作物と原著作者の権利』のキャンディ・キャンディ事件判決の欄に書きました通り、一筋縄でない問題が隠れています。




KLS著作権情報館 判例:連載漫画の登場人物の保護期間
ポパイネクタイ事件です。




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