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どこまでが守られる? 著作物の範囲

記事作成:2016年3月

問題1
掲示板に書き込まれた普通のやり取りは著作物として保護されるでしょうか。

問題2
自分の二次創作物が無関係な雑誌に無断転載された! そんなときでも、二次創作物は保護されるのでしょうか。

※二次創作は原著作者に許可を得ていなかったとします。



著作権法第2条1項
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。
……
十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
……

 まず大前提として、日本国内の著作物は保護されます(著作権法6条)。
 ですから、「なにをもって著作物とするのか」が大事になってくるのです。


 2条1項1号を見てください。著作物の定義があります。この条文を4つに分解してみましょう。

(1)思想又は感情を
(2)創作的に
(3)表現したものであって
(4)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

 (1)によって著作物から除外されるのは、例えば東京の3月の平均気温はいくら、といったものですね。ただし、例えば実在の風景を描いた風景画は、風景自体は「思想又は感情」ではありませんが、その絵の中には風景を描いた画家の「思想又は感情」が込められているといえます。また、幼稚園児くらいの小さな子の描いたおかあさんのにがおえ、みたいなものも、「思想又は感情」を表現したものとされるでしょう。たとえクレヨンで描かれた「おかあさん」が地球外生命体のごとき形状を有していたとしても、絵の巧拙には関係なく保護されます。

 (2)が想定しているのは、その人の創作性が現れていない単なる模写とか模倣。なお、「創作的」とは「今まで誰も作ったことがないような奇抜なもの」である必要はありません。ある程度の著作者の個性が認められればいい、と解されています(注1)。「過去の作品のどれにも似ていない作品を新たに作る、ということはとても難しいことだから、そこまで厳密な独創性は保護される条件として必要とされていないんだよ」、というのは直感的に理解していただけるかと思います。
 ただし、平凡でありふれた表現は除かれます(注2)。掲示板においては、芸術的な詩を書いたりしたら著作物として保護されるかもしれませんが、普通のやり取りであれば(2)の要件に引っかかるので著作物とはならないでしょう。「普通のやり取り」以上の、すぐれた書評とか体験談とかは保護される余地はあります(注3)。「吾輩は猫である。名前はまだない。」といった、それを見ればすぐ「あの作品だな」とわかる文であっても、「ありふれた単語の連結」に過ぎない場合でかつそれほど量がない場合は著作権法では保護されません(不正競争防止法で保護される余地はあります(注4))。

 (3)これも大事な要件で、著作物は表現されていることが必要です。著作権法は具体的な創作的表現を守りますので、考え方とか発想とか着眼点とかだけのものは著作権法は守りません。「思想・表現二分論」と呼ばれます。
 難しいですので、『世界観・キャラクター・シチュエーションと著作権』でページを分けて解説しています。

 (4)はあくまで例です。文学でも学術でも美術でも音楽でもなくたって、文化的なものなら著作物となります。この要件はつまり、「もっと実用的だったり技術的だったりするものは著作権法じゃなく特許法とかで守るんだよ」といっているのです。

 では、2条1項11号を見てください。二次的著作物の定義が書かれています。二次創作物であっても、上記の要件を満たせば著作物として保護されるわけです。「二次創作」というのは法律用語ではありませんので、混乱しないようにしてくださいね。あと、もちろん「二次創作をしていたはずなんだけど気がついたら完全に原作とは違うものを作っていた」のような場合でも上記の要件を満たせば保護されます(注5)。



 なお、特許権と違い、偶然同じものができてしまった場合でも上記の要件を満たせば著作権は保護されます(注6)。

 例えば、誰かが詩を書いた。しかしその詩の中のフレーズで、数年前に発表された詩とほとんど同じになってしまっているところがあった。この場合でも、その「数年前の詩」をそのままマネしたというわけでなければ、つまり以前あった詩に依拠して新たにそれと類似した詩を書いたのでなければ、新たな詩も著作物として保護されるよ、ということです。



 著作権を発生させるのになんの手続きも必要ありません。著作物を作れば著作権は自動発生し、原始的に取得されます(著作権法17条2項)。あなたが今この瞬間に「思想または感情を創作的に表現した文化的作品」を創作したら、それはどこかの役所に書類を提出するとかいうことがなくとも著作物となって保護される、ということです。

 これはベルヌ条約という国際条約によっても規定されています(5条2項)。ですから海外でも通用します。現在では、通常は非締結国を気にする必要がないくらいまでベルヌ条約が影響力を持っています。


―コラム:ベルヌ条約と「(c)」表示―

 「(c)」(マルcが環境依存で打ち込めないので代替しました)で著作権を表示する書き方があります。ウェブサイトの下のほうによく書いてありますね。これは万国著作権条約という国際条約で決められている書き方です(3条)。

 しかし、ベルヌ条約が支配的な今日において、この表示による著作権保護の意味合いは法律上ほとんどないと言って差し支えないでしょう。つまり、法的には(c)を書く必要はほとんどありません。ベルヌ条約ではわざわざ著作権マークを表示しなくとも著作権が保護されるからです。

 大規模に展開するような作品なら、海外では場所により著作権に対する感覚が違ってくることを踏まえつつ、「著作権を積極的に主張して、著作権を侵害されないようにする」という意味がこのマークにあるとは思います。ですがそれなら、同人作家さん程度の規模であれば、「無断転載とかは禁止だよ」とどこかに書いておくだけで足りそうな気もします。

「(c)」の表記は、正式には、

@「(c)」
A「著作権者名」
B「最初の発行年」

の3つが必要です(順序問わず)。

 二次創作同人誌については、無許諾の二次的著作物といえど「原始的に取得された著作権」ではありますから、国際法上の正式な表記を用いても大丈夫だとは思います。……が、あまり無責任なことを申し上げることはできませんので、二次創作同人誌などでの(c)表記は避けた方が無難だと改めておきます。(オリジナルの内容の同人誌ならまったく問題なく(c)表記を利用できます。)




1)「SMAP大研究」事件(東京地裁平成10年10月29日判決)、シャンテリー転職情報事件(東京地裁平成15年10月22日判決)
2)実はかなり厄介な論点です。ラストメッセージin最終号事件(東京地裁平成17年10月6日判決)、交通安全スローガン事件(東京地裁平成10年10月30日判決)、古文単語語呂合わせ事件(東京高裁平成11年月30日判決)などで争われています。ここでは深く突っ込みません。
3)ただし、ありふれたやり取りでも記述量が多ければ、「誰が書いても同じ」とはならないとして保護される可能性もあります。注2のラストメッセージin最終号事件が参考になります。この問題を正面から取り上げた事件として「ホテル・ジャンキーズ電子掲示板事件(東京高裁平成14年10月29日判決)」があります。
4)小説の題名が不正競争防止法で保護されるかという点について、『高林龍(2022)「標準 著作権法〔第5版〕」有斐閣』は肯定的(p.24)、『経済産業省知的財産政策室編著(2012)「逐条解説不正競争防止法〔平成23・24年改正版〕」有斐閣』は否定的(p.54)です。しかし、前者においても「場合によっては」と前置きがなされていますから、両者は矛盾しないと解することも可能でしょう。
5)二次的著作物を厳密に考えていくと「翻案とはなんぞや……」という問題が浮上してきますが、それは『勝手な改変はダメ――同一性保持権、翻訳権・翻案権等』で解説しています。
6)ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決)

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