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同人の立体物は「海賊版」? 商標法・不正競争防止法2

記事作成:2016年4月

問題1
「立体の同人グッズは危ない」。どうして危ないのでしょうか。

問題2
「原作の絵柄を真似した同人誌は危ない」。どうして危ないのでしょうか。

問題3
「立体の同人グッズが危ないって聞いた。じゃあ、手作りのぬいぐるみを作るのも危ないの?」どうなのでしょうか。



 立体の同人グッズとは、そういったものの制作会社に頼めば作ってくれる非公式の缶バッジなどです。

 上の設例は、結論から言えば、恒例の程度問題です。
 前ページの下の方に書きました商標法と不正競争防止法の目的を理解したうえで、こちらのページを読み進めてください。

 ところで、個人的には「危ない」という言い方が同人作家側ばかり見た言い方で大変嫌ですので、「権利者に損をさせやすい」という言い回しをここで提唱しておきます


 以下、普通の同人誌、立体の同人グッズ(製作は専門の会社に委託)、原作の絵柄を真似した同人誌、手作りぬいぐるみの順に検討しましょう。



(A)普通の同人誌

(1)著作権法的には、「キャラクター」なるものは守られないけれども、キャラクターのデザインは守られるのでしたよね(『世界観・キャラクター・シチュエーションと著作権』で書きました)。ですので、デザイン面からしたら、複製権または翻案権侵害が該当するでしょう。

(2)原作のイメージを損なう改変を施した場合、同一性保持権とか名誉声望保持権を侵害する可能性が高いでしょう。
(『勝手な改変はダメ――同一性保持権、翻訳権・翻案権等』参照)

(3)商標法としては、同人誌のタイトルに原作のタイトルを載せると、おそらく漫画・ゲーム・おもちゃ類として原作と同人誌は類似のものといえるでしょうから、商標権侵害になりえます(商標法37条1項)。……が、そもそも商標には出所を表示するとか品質を保証するとかいう役割があるわけですので、わかるところに「この同人誌は個人が創作した二次創作物です」と明記しておき、かつ頒布が同人誌即売会においてなど慣習的に「それが原作側から出版されたものではないことがはっきりわかる」状態であり、かつその同人誌を公衆に見られるところで開かないという了解が得られれば、さして問題にならないといえそうです。

(4)不正競争防止法はどうか。原作がよく知られたタイトルならば不正競争防止法2条1項1号、2号に該当しそうですが、(3)と同様に考えることができるでしょう。

 以上より、普通の同人誌なら問題になるのは複製権、翻案権、同一性保持権、名誉声望保持権でしょう(注1)。あとは、本サイトでは取り上げていませんが氏名表示権(著作権法第19条)なども問題になるでしょう。



(B)立体の同人グッズ

 (1)(2)までは(A)と同じ。

(3)商標法はどうか? 例えば、「つままれストラップ」という名前で非公式にストラップ型のグッズを作り頒布したら、商標法違反です。……が、こちらであっても(A)の(3)で書いたことと同じ点を注意すれば法律構成としてはほとんど変わりません。問題は「そのグッズが公衆に見られてはならない」という点でしょうね。立体の同人グッズはその性質上公衆に見られる扱いをされやすいですから、頒布時に十分に注意を呼びかけることは必要と思われます。
「え? 鞄につけて持ち歩いちゃダメなの?」おそらくダメです。グッズは同人誌以上に正規品と混同・競合を起こしやすいのですから、注意して取り扱う必要があります。

(4)も(A)と同じ。


 思うに、「立体の同人グッズは危ない」というものの理由は、

  • 公衆に見られやすい
  • 正規品と混同・競合を起こしやすい

 に尽きると思います。ですから、ここをしっかり注意すれば、先述の通り、普通の同人誌と法律構成は大きく違わなくなるでしょう。つまり、「出所を表示する」「品質を保証する」という商標とか商品表示の役割を考慮して、

  • 原著作者とは無関係な個人の二次創作物であることを明記する
  • 同人グッズの頒布時には、通常の二次創作同人誌と同様に、公衆に見られないようにするよう呼びかける
  • 正規品が販売された場合、そちらを優先する(いわゆるデッドコピーを作らない)
  • 同人グッズを作りすぎない

を守れば、同人界隈の需要も満たされる。正規品は堂々と外に持ち運ぶこともできるので正当な権利者の利益も守られる。となり、落としどころになるのではないでしょうか。あくまで個人的な提案ではありますけれど。



(C)原作の絵柄を真似した同人誌

 (B)における「正規品と混同・競合を起こしやすい」があてはまるパターン、という感じです。
 ですから、上に書きました(B)立体の同人グッズを頒布するにあたり注意することをこちらでも努力して守ることが必要かと思います。



(D)手作りぬいぐるみ

 以上(A)〜(C)と(D)はなにが違うかというと、そこに営利目的の会社が介在するか否かです。ぬいぐるみ作りは通常、ひとりでちくちくやるので同人誌とか同人グッズ製作会社がかかわりません。すると数も限られますので、法的には不法と判断されやすい要素が少し少なくなります。頒布の際に金銭とぬいぐるみを交換するならばやはり複製権・翻案権・同一性保持権の責めを負うでしょうが、そんな感じです。

 とはいえ(B)に書きました注意事項は守るべきです。



 それと最後に。
 注意すべきことをいろいろ書きましたが、全部しっかり守ったとしても正当な権利者は正当な権利者です。権利者に求められたら素直に利益を差し出しましょう。



参考条文

商標法第37条
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。

一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用

不正競争防止法第2条1項
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示……として需要者の間に広く認識されてるものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

 損害賠償金額は、『「攻略サイト」って違法なの?――複製権、公衆送信権等2』で書いたことと同じように考えてくださればよいです。




1)web里見学園事件(東京地裁平成19年1月31日判決)では、あるゲームサイトのパロディサイトに損害賠償請求がなされた際、裁判所は「ことさら原告に損害を与えることを目的としたり、そのような態様で行うといった特段の事情が存在しない限り、不法行為を構成するものではない」と判示しました。これより、権利者に損をさせたり原作のイメージを損なったりしない範囲での二次創作は不法行為にならないといえる可能性があるということになります。

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